「バスケ?」
それは、連休明けの風薫る五月。吹かれても靡かない短い髪の毛がキラキラと光って、何か付けているのだということはわかった。
まず真っ先に髪の毛に目が行ったのは、相手の頭部が聡の目から一番近い位置にあったから。
低いな………
対峙しながら、ぼんやりとそう思った。
「今 低いって思っただろ?」
言い当てられて、面食らった。
聡の態度に、蔦は自嘲気味に笑う。
「いいさ。本当のことなんだから」
「あ…… 悪い」
「かまわないさ」
聡の言葉をサラリと流し、片手を腰に当てる。
「それより、どう? バスケ部。俺みたいなチビより君の方が、よっぽど活躍できると思うけど」
「わりぃ。部活には興味なくって」
「スポーツ嫌い?」
「いや…… そうでもないけど」
「だよね? 体育の時間だって、結構楽しそうだし」
同じクラスでもないのに、なぜそんなことを知っているのだろう?
ふと疑問に思ったのを、今でも覚えている。
「ウチの学校は部活には全然力入れてないから、別に大した練習もしないよ」
「あぁ〜 わりぃけど、放課後は結構忙しくって」
「あぁ」
蔦はニヤリと笑う。
「相手はあのハーフだもんな。勝算ある?」
「…………」
何も言わず、ただじっと見下ろしてくる相手。だが蔦は大して悪びれた様子もなく、片手をヒラヒラと振った。
「そう怖い顔すんなよ。お前らのコトを知らないヤツなんて、いると思うか?」
確かに。
全校生徒の目の前で、大声で告白したのだ。それ以後だって、別に隠すこともしていない。
周囲の視線を気にしていたら、いつ瑠駆真に取られてしまうかわからないし、中学の時に想いを告げなかった後悔を考えると、とにかくまず、美鶴に自分の想いをわかってもらいたかった。
「別にバカにしてるつもりはないよ。俺にだって好きな子くらい、いるからな」
そう言って蔦は見据える。
「お前の気持ちもわかるぜ。好きな子の為だったら、なんだってしたくなるよな」
蔦は、聡よりかなり低い。だがその時の蔦の、押し寄せるような気迫のこもった眼力。聡は生唾すら呑んだ。
少し垂れた瞳は、普段こそ軽薄で気弱に見える。だがそれは間違い。
蔦は、本気だ。
「勝手なことをしてくれるなよ」
男子生徒二人には、あまりにも広すぎる体育館。
二面並んだコートのうちの一つ。センターとゴールの間あたりで、蔦はボンッとボールを床に落す。
落されたボールは床に跳ね、まるで磁石でも付いているかのように、蔦の掌に吸い込まれた。
「今日の練習、どうしてくれるんだ?」
「俺のせいじゃない」
スポーツバックを肩にかけたまま、聡は入り口で答える。
「他のヤツらが帰っちまったのは、別に俺のせいじゃない。チームをまとめるのは主将の役目だ」
すばやく向けられる蔦の視線。その鋭い眼差しを、だが聡は意外だとは思わなかった。腹も立たなかった。
「170cmもねぇクセに、エラそーな口きくなよ」
「お前みたいなチビが主将なんてやってるから、勝てねぇんだよ。俺達のせいにすんなよな」
一年生の秋。蔦をバスケ部の主将にしたのは、他の部員だった。練習熱心だし責任感も強く、頼りになる。
「わりぃな 今日は練習パスするよ」
まず始めに、上級生がサボり出した。
受験を考え、二年のうちに辞めてしまう生徒は少なくない。だが、引退も明言せずきっちりとケジメもつけず、ダラダラと来たり来なかったりの行動は、下級生には悪影響だ。
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